往診２日目です。犬は小屋で奥を向いて寝ていました。耳が遠いた
めか、近づいても動きません。お尻をつついてやりますと、後ろを振
り向きました。ああ、元気になっていると思いました。飼い主さんにお
聞きしますと、私が言ったとおり、３時間たつと、少し食べたそうで
す。また、水は何度か、注射器で飲ませたそうです。また、自分でも
飲んだそうです。もう一つ良いことは、久しぶりに夜中に泣かなかっ
たので、お渡しした睡眠薬は飲まさなかったそうです。
　飼い主さんが、腕を噛まれておられましたので、私も噛まれるかな
と思いましたが、小屋から出してみました。心配することもなく穏やか
なものでした。前日と同じ治療をしました。
後2日間、治療をしますと、治るかどうかは判りませんが、うんと良く
なると思いますとお話ししましたが、あまり乗り気でありませんので、
飲み薬で乗り切る作戦に切り替えます。そこで、薬を包む食べ物を
持って来て貰うことにしました。食べようとしますが、まだ、舌がうまく
動かないらしく、口に入れたものを落とします。そこで、手のひらに乗
せて、口に押しつけるようにしましたら、全部食べました。
　次は、少し早いと思いましたが、リハビリの仕方を指導することにし
ました。
手を胸から掬うようにして犬を立たせることにしました。立った状態に
して、そっと手を放しますと、自力で立っています。すぐに、砕けるよう
に伏せの姿勢になりました。数分後、もう一度たたせますと、今度は
立っています。「この様に、立っているだけでいいですから、毎日、数
回してください」と言いましたが、犬は歩こうとします。両手を放しまし
たら、ふらふらですが、1mほど歩きました。
　３日分の内服薬をお渡しして治療終了です。

４日後に、死にましたの電話を頂戴しました。
ああ、良かったなと思いました。
犬は苦しくて泣き叫んでいたのが解放されました。飼い主さんは、安
楽死を嫌がっておられましたが、ご近所の手前、安楽死を望まれた
ご家族、飼い主さんは、最後の介護らしい介護をされた上の死です。
　治っても良かったのですが、それではまた、全員の同じ苦しみが始
まるところでした。
それでも、後２日は治療したい気持ちも残りました。