叱られたお話　その1

　　　　　　先日、右前足を、びっこをひきながら20kg近くの犬がやってきました。3日ほ

　　　　　ど前から痛がっているとのことです。シッポは振ってくれて友好的なところを

　　　　　見せてくれるのですが、私はこの犬は噛むと思いました。

　　　　　長いこと獣医師をしていますと、殆ど、瞬間に噛むかどうか判ります。噛まな

　　　　　いと思っても、痛いところを触られたらどの犬でも怒ります。

　　　　　噛まれないために、すぐに、犬に接近しました。犬との距離は、10センチぐら

　　　　　いです。この距離になりますと、犬は尾の振り方は、ますます、しっかりした

　　　　　振り方になります。頭をなぜたら良いと思われるでしょう。怖がって犬の頭を

　　　　　向かい合って撫でるのは、危険です。後ろから撫でるのは、怖がりません。し

　　　　　かし、勇気を出して面と向かって撫でますと、私か゛犬より上の立場に立てま

　　　　　す。撫でました。なにごとも起こりません。

　　　　　これで安心して、犬の左足を持ち上げました。

　　　　　なぜびっこをひいているか、どこが悪いのか診察です。歩いて入ってきたとき

　　　　　に、右前足で、先の方と見当をつけていましたので、

　　　　　①指の間にダニ　②　指の間の皮膚病　、年中見られる　③　捻挫、脱臼、骨折　

　　　　　指の間の①②は無しをチェック。　ここで　飼い主さんから、「先生、その足

　　　　　と違います」「知っています。いい方の足で触って怒るときは、悪い足で怒る

　　　　　のは当たり前ですから、様子を見ています」。お判りですか?　はじめから　

　　　　　痛い足を触ったら、触られるのが嫌だから怒こったのか、痛いから怒ったのか

　　　　　判りません。犬は警戒しています。今度は、悪い方の足をゆっくり、左手で持

　　　　　って、指の間を開いていきます。全部終わる頃に、うーと怒りました。

　　　　　本当は、はじめから診察台の上に上げて貰えば、噛まれることはあっても、ど

　　　　　こまでも追いかけられて、全身噛まれるということはありません。しかし、私

　　　　　は痛い犬を抱き上げると飼い主さんが噛まれてはと思い、下で診察を始めたわ

　　　　　「これで、良いです。3,4日様子を見てください」と言いましたら、飼い主さんが怒

　　　　　り始めました。「先生、もっと、ちゃんと見て下さいよ」　そりゃそうです。熱い中を、

　　　　　遠くから連れてこられたのに、私の診察は、1分もかかっていません。

　　　　　傍にいた家内が、「この子は、噛んだことはありませんか」とお聞きしますと、「あ

　　　　　りません」と。「後ろ足なら、触って診察できますが、前足は、捻挫をしらべるには、

　　　　　ひっぱったり、ねじたりしますから、余計におこりますから、口をくくる必要がありま

　　　　　す」「仮に、捻挫だとしても、私は何もしないで様子をみますから、3,4日後に考えま

　　　　　しょう」と言いましたら、ご立腹で、「先生、3,4日したら治るのですか」「今まで、殆ど

　　　　　治っています。そのときで、手遅れにはならない思いますが・・・」

　　　　そりゃそうですよね。心配だから連れてきたのに、1分の診察で、終わりなんて。

　　　　きっと、レントゲンを撮ったり、いろいろ診察をしてもらおうと思ってこられたのだと思

　　　　います。骨折している犬が、歩いてなど来ません。少し、ヒビがあるという可能性はあ

　　　　るかもしれませんが、それなら、びっこではなく、足を挙げたままで、3本足でやってき

　　　　まだ、ご不満のようですので、診察台に上げてもらうことにしました。

　　　　飼い主さんに、診察台に上げることは出来ますかとお聞きしますと、「出来ます」との

　　　　ことですので、あげて貰いました。

　　　　しかし、とても、痛い足を触らしてもらえる状態ではありません。診察してくれとのこと

　　　　でしたが、これでは口をくくるしかありません。考えるか時間も無いぐらいで、犬は台

　　　　から飛び降りてしまいました。

　　　　私は、レントゲンを撮るより高等な診察をしたつもりでしたが、飼い主さんから怒られた
　　　　診察になりました。診察料　1000円を頂いて終了です。

　　　判りません。直ぐ、その足で、しっかりした先生に行かれたかもしれません。

　　　4日後に治ったかもしれません。

　　　これから、一杯のサービスをして、飼い主さんが満足される医療をしなければいけな

　　　いのだなあと思いました。

　　　しかし、私は必要の無いことは、やはり、ようしませんね。