死にましたと宣言した犬が生き返りました
5日前に、雑種の犬が、午前の診療間際にやってきました。身体は全身冷たく、
全く動きませんでした。聴診しましたが、時々、心音が聞こえる程度。
普通ですと、体温を測って、聴診をして、触診をしてと順番に診察していくの
ですが、そのときは、酸素のコックを開けて、口にマスクをあてて、兎に角、
強心剤を少し、皮下に入れました。残りを静脈からと思いましたが、脱水がひ
どくて皮膚はつまめません。血管は出ないが、静脈注射を試みましたら、偶然、
血管に針が当って入りました。
「おい お前は運がいいぞ」と心の中で言いながら、診察を続けます。口の中
をみましたら、歯茎のいろは真っ白です。あまりにも、診察することが多くて、
肝心なことを忘れていました。保温です。ドライヤで暖めました。飼い主さんに
手伝ってもらって暖めます。ドライヤが加熱してダメになるのではと心配してい
たら、点滴の針が抜けてしまいました。抜けたとは思えないのに、液が落ちて
いかないのです。まだ、20ｃｃも入らないのに。もう一度、やりなおしましたが、
同じパターンになります。
飼い主さんは、「なにか 病気ですか」
私 「病気どころか もう死に掛けています」
どうも私が、なんの病気か、説明しないので ご不満です。
それもそのはずです。
飼い主さんの言われるのには、昨日まで、元気に歩いていたし、あまりにも食べ
過ぎるので、肥えすぎたらいけないので、食餌を一日、一回にして、押えていた
ぐらいですと。
どれぐらい時間がたったでしょうか？ (1時間？) 僅かに、手足を動かすよう
になりました。
心音も強くなりました。呼吸も大きくなってきました。
急に、呼吸が止まりました。聴診すると心音は、聞こえますが、2秒に一回ぐら
いです。暫くして、心音が聞こえなくなりました。瞳孔散大。
死亡しましたとお話しました。
5分ぐらい、お葬式のお話をして、帰って頂きました。
2分ほどして、チャイムがなります。
戸をあけますと、「先生 息しているのと違いますか」
明らかに、息をしています。
大慌てで、酸素を吸わして、又、ドライアであっためます。
40分ほどで、状態が落ち着いてきましたので、近くの往診を急いですませ、飼い
主さんに帰宅してもらいました。それから、側についてやりましたが、六時前に、酸素を嫌がる
ようになり、口の粘膜も少し、赤身が見えましたので、酸素を止め
ました。
6時20分頃になると、起き上がって伏せの姿勢をするようになりました。
8時前に来ると言って帰られた飼い主さんに喜んで貰えると思いながら、少し、
寝ようと二階に上がる。
8時5分前、チャイムが鳴って、子供さん二人を連れて、お母さんが見にこられ
ました。「元気になりましたよ」と口まで、出かかった言葉を押えて、そっと、見ると、
反対の向きになって、又、横になっています。
死んでいました。
勿論、身体は冷たく、硬直が始まりかけていました。
体重は 普通の半分、皮膚は、皮膚病で、毛が3分の1も残っていませんでした。
瞳孔を見たら、周囲に、まだ、少し残っている部分がありました。
安易に、死亡の宣言をしないで、心肺が停止していても、もう少し、頑張ってし
てやっていたらと思ったり、いや、意識が戻ってからの治療が大変だと思って見
たり、開業以来、はじめての経験で、いろいろ考えさせられました。
犬は、6歳でした。
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