しんちゃんへの手紙
中お見舞い申し上げます
以下の文章は、先日、産経新聞の「夕焼けエッセー」に投稿したものです。
没になりましたのを 掲載するのは、ちょいと、失礼ですが、
私が40年獣医師をしていまして、犬にメッセージを託されたのは，初めてのことです。
心に余裕がないと出来ないことです。
読んでください。
しんちゃんへの手紙
しんちゃんの本名はシンノスケ。名前は日本的だか、種類はハスキー犬である。私
の病院にやってくるときは、彼は碌でも無いことばかりされるのに、いつも大張り
切りでやってくる。少し手前から、30キロの巨体で引っ張るために、飼い主さんの
大声とともにやってくる。青い目で、どこを眺めているのか判らない感じの視線を
ふりまきながら、精一杯の挨拶をしてくれる。
昨年１月から、１５回にも及ぶ全身麻酔をかけての治療の末、今回は安楽死を選ぶ
ことになった。とは言うものの、奥さん一人の判断では決めかねるので、男どもと
相談してきますと言って帰られた。「男どもは、泣くばかりで役に立ちません」と
いいながら、電話でお願いしますとの返事を受け取った。長い獣医師生活で、元気
なのに、安楽死をしたのは5頭目である。
３時半に動物霊園から、迎えにきますと連絡を入れると、やや太めの肝っ玉かあさ
んは、しんちゃんの好きな食べ物を持って来られました。
家内が、庭に咲いている花を摘んできます。チーズやクラッカーがしんちゃんを埋
めます。そして、「しんちゃんへ」と書いてある白い封筒が、知らぬ間に添えられ
ていました。
こんなに何回も手術をし、長い間治療をしながら、助けることが出来なくて、す
っきりしないものを感じていましただけに、ほっとしました。
「しんちゃん 生まれ変わってくるときは、又、犬になれよ」と声をかけて・・・。
しんちゃん 享年 １０歳と９ヶ月。
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